「有機野菜」・「オーガニック」を主張する野菜が流通し始めて久しいですが、
みなさんはその言葉の意味するところはご存知でしょうか。
今回は、巷で見る「有機野菜」について、改めてその定義を確認していきたいと思います。
生産者の信念やそれに基づく栽培方法は原則自由であり、それに対して消費者がとる選択もまた自由です。
言葉の意味やその信条、政府が定めたルールのラインをまず知ることで、有機野菜について検討する際の一助となれば幸いです。
有機栽培とは
農薬や化学肥料の使用に依存した農業のあり方と対照に、
自然本来の力や生態系の考え方に基づいた栽培方法を指します。
もう少し詳しめにいえば、農薬や化学肥料が一般的に使用されるようになった近代農業において、それらを極力低減し、田畑を始め多くの生き物にとって共存・共生を実現できる健全な循環を志向する考え方になります。
「有機農業の推進に関する法律」(平成18年法律第112号)では、
化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業
と定義されています。
※「有機」は有機物を指していますが、これはかつての化学肥料の多くが無機質であったことから象徴的に名付けられており、有機物のみ使用を許可されているわけではありません。
しかしながらこのような明確な定義をされたのは近年のことであり、それまでの数十年間、私たち消費者や生産者の間でさえも、明文化された共通の基準のないまま「有機栽培」・「有機野菜」の言葉が使われてきたのが事実です。
巷にあふれた「有機野菜」たち
その言葉のイメージから、なんとなく「自然っぽくて健康的」といった印象をもたれると思いますが、流れに乗った様々な事業者が「有機」を冠した商品を販売し、巷に有機野菜が氾濫する事になりました。
この事態で困るのは商品を選択する消費者、そして本当に信念を持って有機栽培に取り組む生産者の方々です。
「有機栽培」された野菜を示す確かな基準もなく、消費者は混乱してしまっている状態でした。
「有機JAS認定」制度
そこで農林水産規格協会は、「有機JAS認定」制度を発足し、厳しい審査基準をクリアしたもののみが有機JASマークや「有機」・「オーガニック」などの表示をつけられることとになりました。
基本的には下記の条件を満たした農産物と定義されています。
農業の自然循環機能の維持増進を図るため、以下の方法で生産された農産物
- たい肥などで土づくりを行い、種まき又は植え付けの前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用しない
- 土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させる
- 農業生産に由来する環境への不可を出来る限り低減
- 遺伝子組み換え技術を使用しない
農林水産省「有機食品っていいね!」リーフレット
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/yuuki_leaflet_2013.pdf
この考え方に基づき、使用する資材(肥料や農薬)、栽培方法から保管・輸送まで様々な項目を設け、第三者機関によって厳しく審査されたもののみが有機野菜として市場に出回っています。
有機野菜の良さとは
では、有機栽培された野菜はいったい何が良いのでしょうか。
有機農業の目指すもの
- 安全で質のよい食べ物の生産
- 環境を守る
- 自然との共生
- 地域自給と循環
- 地力の維持培養
- 生物の多様性を守る
- 健全な飼養環境の保障
- 人権と公正な労働の保障
- 生産者と消費者の提携
- 農の価値を広め、生命尊重の社会を築く
特定非営利活動法人日本有機農業研究会より
http://www.joaa.net/mokuhyou/m-index.html
こういった理想を実現していく手段として、有機栽培は行われています。
人間が食べるときの安心感・安全性の確保はもちろんのこと、環境やすべての生き物の共存・共生を守りつつ農業を発展させていきたいというのを目標としています。
消費者としては、より安全で質が良い野菜であるという認識でよいでしょう。
有機野菜にまつわる様々な議論
有機栽培については様々な評価があり、観点によっては有機栽培に反対する見方もあります。
例えば下記のような意見が挙げられています。
見た目が良くない(形が不揃い)
虫食いが多かったり、均一なサイズ・形状にならないなど、見た目に違いが出てきます。
口に入れるものとして、気になる人にとっては購入しない理由にもなりえます。
また規格に準しないのはそもそも市場に出せないことも多いため、生産者にとってはシビアな問題でもあります。
価格が高い
有機栽培には大きな手間とコストが掛かり、必然的に価格は上がります。
他の野菜と比べて3割増ほどの価格で売られているのが現状です。
100%安全というわけではない
有機JAS認定において禁止されているのは、農林水産省が指定する禁止農薬のみであり、逆に言えばその他の農薬が使用されている可能性はあります。
あくまで政府の定める有機JAS認定という一定のラインをクリアしているか否かであり、100%の安全を保証するものでもありません。
また、「天然農薬」と呼ばれるに有毒成分ついても議論があります。
これは虫から身を守るために作物自身が分泌する有害成分があるとの説で、摂取した人体にとっても有害であるといわれています。
しかし現状不明瞭な部分が多く、今後の研究で明らかになっていくと思われます。
さいごに
以上のように、消費者の観点からするといいことづくめというわけではありませんが、事実を認識・理解し、皆さん自身で選択の判断をしていくことになるでしょう。
いち人間として有機栽培の目指すもの・信条に共感するか、
また消費者として有機野菜という商品を選択するか、
この2つの軸で考えていくと良いのではないでしょうか。