江戸っ子の食卓を支えてきた伝統野菜「江戸東京野菜」を食べよう

「江戸東京野菜」という名前を聞いたことがあるでしょうか。
江戸時代より伝わる伝統野菜の呼称で、東京のブランド野菜として普及に注力されています。

江戸東京野菜は、生産量が少なく収穫時期も限られていますが、
その独特な味わいや個性的な見た目からいま大きな人気を呼んでいます。

今回はその中でも面白い歴史を持つ伝統野菜をいくつかピックアップし、エピソードとともにご紹介していきます。

亀戸大根

亀戸大根

東京伝統野菜の代表格

江戸後期に亀戸地区で盛んに栽培された、にんじんほどのサイズの大根。
少し苦味があるのが特徴です。
新鮮な野菜が少ない早春に採れる青物として江戸っ子に喜ばれました。

10月中旬~4月中旬

伝統小松菜

伝統小松菜

将軍が名付けた古き良き青菜

八代将軍徳川吉宗によって命名されたとされる「小松菜」。
吉宗が小松川村に鷹狩に訪れた際、食事に出てきたこ菜の名前を土地の者に聞いたところ、
特に名前の無い「青菜」であることを知り、地名にちなんで名付けたという説があります。
シャキシャキとした食感が特徴です。

10月中旬~4月上旬

馬込半白節成きゅうり

馬込半白節成きゅうり

下にいくほど白い、漬物にピッタリのきゅうり

明治時代に「大井胡瓜」を改良して生まれ、現在の大田区馬込で主に栽培されました。
「節成(ふしなり)」という、親づるの節ごとに雌花をつける栽培のしやすい品種です。
皮は固めでしっかりした食感が楽しめます。

6月~7月

のらぼう菜

のらぼう菜

強い生命力で江戸を支えた青菜

江戸時代中期、江戸近郊の村々に「闍婆菜(じゃばな)」という名前で、菜種油用の種が幕府から配られました。
この若菜がのらぼう菜です。
のらぼう菜は耐寒性に優れ、花茎を折ってもまた次の芽を出す強い生命力を持つ野菜として普及し、
「天明の大飢饉」や「天保の大飢饉」の際にも、人々を飢餓から救ったとされています。
ゆでてもかさが減らず、おひたしなどはもちろん、炒め物や味噌汁の具など、調理の用途も広い野菜です。

早稲田みょうが

早稲田みょうが

江戸の食卓を豊かにした「江戸のハーブ」

江戸時代より、早稲田村で盛んに生産されていた早稲田みょうがは、大ぶりで赤みが濃く、味・香りが強いことが特徴です。
都市化にともなって一度は姿を消しましたが、近年復活し生産が徐々に増えてきています。
「みょうがを食べると物忘れをする」という言い伝えにも負けず、
江戸の城下町では「江戸のハーブ」的存在として人気がありました。

9月下旬~10月中旬

金町小かぶ

金町小かぶ

春に採れる美しい小かぶ

金町小かぶは、現在の葛飾区東金町で、品種改良により4月に早採りできるように、明治末期に開発されました。
霜や寒さで傷んでいない青々とした金町小かぶは、高級料亭などに高値で取引されるなど、消費者にも大きな人気がありました。

10月中旬~3月中旬

寺島なす

寺島なす

たまご型が可愛い伝統のなす

いまの墨田区東向島周辺にあった寺島村で育てられた、小ぶりでありながら風味の強いなすです。
隅田川の恩恵による肥沃な田園地帯に育まれましたが、時代とともに栽培は一度途絶えました。
近年有志により復活し、伝統野菜として栽培に力を入れられています。

夏~秋

内藤とうがらし

内藤とうがらし

江戸に敷かれた赤いじゅうたん

江戸時代、現在の新宿区で「真っ赤なじゅうたん」と呼ばれるほど盛んに生産されていた唐辛子。
江戸と近郊農村を結ぶ文化的・経済的拠点の役割を担っていた、甲州街道の宿場「内藤新宿」において、内藤藩は屋敷で栽培し余った野菜を販売していました。そこで評判になった唐辛子は、内藤とうがらしとして近郊の農村にも広がり、この地域の名産品になったとされています。

明治時代に入り、内藤藩の屋敷は政府に上納されてから、新宿の開発とともにのうちもなくなり、内藤とうがらしも次第に姿を消していきました。
しかし近年、内藤とうがらし復活プロジェクトとして各地で復活・普及の取り組みが行われています。

9月~10月

東京うど

東京うど

数少ない日本原産野菜の一つ

東京うどは「軟化うど」というタイプで、地下で栽培され光を浴びないため、真っ白な姿をしています。
香りがよく、アクも少ないため様々な調理に利用でき、日本料理向けの高級料亭などでも利用されています。

11月~12月

さいごに

伝統野菜は、多くが収穫の季節が限られた野菜であり、日常の中で旬を感じさせてくれる食べものです。
また、それぞれが歴史的背景やストーリーをもち、数十年~数百年にわたってそれらを守ってきた作り手の思いを感じられる貴重な食材でもあります。

これまで私たちの暮らしを支えてきた伝統野菜たちへの恩返しの意味でも、後世に残せるよう守っていきたいものです。